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新米詐欺コンビの不出来な芝居

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昼下がりの訪問者

土曜の午後リビングでうつらうつらとテレビを観ていると、近所を訪ねるセールスらしき声が外から聞こえる。そのうちこっちにもやってくるなと思っていたら案の定ピンポ~ン。重い腰を上げインターホンの応答ボタンを押すも、すでに別部屋にいた連れ合いが応対中。困ったら呼ばれるだろうとソファに戻り、そのまま午睡の続きを始める。

20分ほど経っただろうか、またチャイムを鳴らす者がいる。やれやれ、とインターホンのモニターを見ると、ニッカボッカを履いた若い職人さんが立っている。全身がわかるようにカメラから遠く離れた道の真ん中にいる。少し違和感があったが、怪しい者と思われないように気づかったのだろう、とよい方に取り、玄関に出て話を聞く。

 

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屋根が壊れている!?

彼が早口で告げた内容から聞き取れたのは

「裏のアパートで工事をしている者」「このままではマズいからと親方に指示され教えに来た」「屋根の頂上の覆いがパカパカとはがれている」「口が開いており雨水が入るだろう」「急こう配なので足場を組まなくてはならない」「知り合いの業者さんに急いで直してもらった方がよい」など。

さて、これは余計な出費だわい、と連れ合いに先ほどの一部始終を告げると、それは詐欺だと決めつける。彼女が先に取ったインターホンは外壁塗装や屋根修理のセールスだった。ナイスすぎるタイミングでのお知らせにピンときたらしい。

しかし、いちおう確認してみないことには気持ちが悪いので、屋上に脚立を持ち上げ、恐る恐る屋根を覗く。頂上は勾配の先にあり、脚立に乗った程度では確認できない。

さて、困ったと思案していると連れ合いが「安いドローンを買ってきて飛ばそう」と迷案を出し、結局、物置にある高枝切バサミの先にスマホを取り付け動画撮影してみることにした。

高枝切バサミは4mもある長い物で、軽いスマホとはいえ立てると少しシナる。2階の屋上から伸ばしたから、高さはざっと12mはあるだろうか。なんらかの拍子でスマホが外れ落下したら木っ端みじんは必至だ。スパイ映画のように、なかなかスリリングな時間を経て、無事撮影を終えた。

動画を再生してみると、なるほどドローン映像のように迫力満点だ。いやいや今はそんなことに感心している場合ではないと気を取り直し、肝心の頂上部分に目を凝らす。

どういうわけか、どこも壊れていない。頂上はきれいに塞がれ、勾配の隅々まで確認するがおかしなところはどこにもない。

さらによく考えてみたら、裏手にはうちより背の高いアパートなど存在していなかったのだ。屋根のてっぺんが見えるはずがない。見回しても工事中のアパートなどどこにもなかった。

 

これで確信した。あいつらは詐欺コンビだ。

しかし、大きな疑問が残った。先に訪れたセールスは連絡先など何も告げず去ってしまったのだ。郵便受けにチラシ1枚置いていかなかった。これでは、仮に「知り合いの業者さん」がいなかったとしても――事実いないわけだが――彼らの口車に乗りようがない。

先に連れ合いが応対したので、あの家に今は女性しかいないと踏み、波状攻撃を仕掛けたが、主人が出て退散したのだろうか。あるいは若い職人役が騙すべき家を間違えたのか。杜撰すぎる詐欺の手口である。

しかしそういう僕も親切な職人役に「ありがとうございました」と丁寧に礼を述べたのだから御目出度いものだ。

その後、彼らは訪ねてこないが、新たな展開が待っているのだろうか。素敵な予感に満ちた盛夏となった。

 

 

 

 

 

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