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中学2年生の最後の頃だったと思う。バレーボール部活の町内大会で優勝したことがある。
優勝といっても小さな町で中学は4校しかない。
そのうち1校は運動神経抜群のアタッカーがいて公式試合でも練習試合でも勝ったことがないほぼ絶対の強豪校だった。うちの中学ともう1校がそのあとに続き、1校が弱小校という構図だ。
だいたいにして小学生のときに体育3の僕がキャプテンなんだからそのレベルたるや校内では知れたものである。
前年の先輩は県大会で3位に入る活躍でその年新任の体育大卒業直後の女先生にとって自慢のチームだったに違いない。しかし僕らの代となりどうにも使える選手がいない。たぶん生徒会長だった僕が消去法でキャプテンになったのであり、期待値たるや相当に低かったに違いない。
しかし最後の町内大会の当日、女先生はやたらと僕らのマインドアップに努めてくれた。「あんたたちはまじめにやってきたんだからいつもどおりやれば絶対勝てるからね」。記憶は薄れたがそんなことを言ってくれていたような気がする。たぶんそれが彼女の教師としての指導力の優れた部分だったのだ思う。
僕らは先生の暗示にまんまと乗り、その強豪校に圧倒的な点差で勝ってしまった。
バレーボールというのは気分のスポーツである。その気になればどんどん体が動き、アタックが決まり、奇跡のレシーブが飛び出す。女先生は最後にそれを仕掛けたに違いない。
あの圧倒的存在のアタッカーに対しても僕らはバンバン、ブロックを決めた。本当にこれが僕らかという活躍で優勝してしまった。
きっとあの彼は不良の道に進んでしまい、タバコに手を出し、体が動かなくなってしまったのだろう。もしかしたらもうバレーボールなんてどうでもいいと思うようになったのかもしれない。僕は彼の精彩を欠いた姿に勝手にそう判断した。
その試合には当時付き合っていた初恋の彼女も応援に来てくれていた。女先生が喜ぶ、彼女が泣きそうな顔で喜ぶ、そんな姿を見て、僕はああ自分を信じて戦えば結果が出るもんだな、ということを学んだ。
中学ではいろいろなことを体験したが、たぶんその後の人生で最も大切なことを得たのがこの部活のバレーボールで、あの女先生だったのかもしれない。
僕はもうひととおりのことをやり終活のときを迎えている。振り返ると僕の芯が作られたのは中学のあのときだったに違いない。人生の早期に気付くことができ本当にありがたいことだった。
もしも君が今中学生だったら、その親御さんだったら、そして新任の先生だったら、こんな経験を得たひとがいたことを記憶に留めてほしい。
ひとはいつ命の啓示を受けるか、あるいは与えるか知れない。あなたはいまその時にあるのかもしれないのです。