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叔母夫婦と62歳の僕

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父方の叔母は僕とひと回り違う。4人兄姉の末っ子で、僕が小学生のころ結婚し、埼玉県大宮郊外の貸家に住んだ。

叔母によると父母は家付きの農家を嫁ぎ先にしたかったようだが「とにかくプライバシーがほしくて一刻も早く家を出たかった」と振り返る。築150年は下らない古民家のため個室など与えられるわけもなく、低血圧気味だった叔母は奥の部屋でよく朝寝坊をしていた。

結婚相手は勤務先の百貨店の同僚だった。秋田生まれのやはり末っ子でいまもそうだが始末な人である。

初めての公園デートに叔母はなぜか僕を伴って行ったがきっと困惑しただろう。海水浴にも連れていかれ泳ぎを教えてもらったが、結局何も学べず現在までカナヅチだ。彼に落ち度はなく、僕はそんなそぶりも見せないようにしてきたが、正直ちょっと苦手であった。

そんな義叔父からめずらしく携帯に電話が入った。パソコンを買い替えたがメールの設定ができず困っているという。叔母を通してではなく直接かけてきたということはよほど困っているのだろう。新型コロナワクチンの“まん防”が発出されている最中だったが電車で片道2時間のお宅に伺った。

小さな事務所を経営していたころからパソコンやLANの設定をやっていたので自信があった。1時間もかからず直せるだろうと思っていたが結局ダメだった。義叔父はもうすぐ80歳でパソコンのことはよくわからない。メールカウントやパスワードさえもあやふやなくせに、いじりまわしてあった。「買い換えた」と言ってはいたがすでに3年前のことであり、購入した量販店にサポートを依頼するも結局直らず仕舞だったという。

当日はたいそうなお昼ご飯をご馳走になり義叔父からは1万円、叔母からは3000円のお心遣いまで頂戴した。こうなるともはや逃げ出すわけにはいかない。

その後、いろいろ調べ作業手順を作成、郵送したうえで電話で指示したがどうにも埒があかなかった。
結局、再度お伺いし、メールの設定を終えた。その際も叔母からは5000円のお小遣いが。いくらなんでもこれではいただきすぎなので、何か贈り物をすることで気持ちをあらわすことにした。

じつは最近存在を知り、離れて暮らす家族や息子の嫁さんのご実家にまで贈ったクッキーがある。さっそく手配すると叔母からお礼のLINEが来た。「これ美味しいよね。最近見かけないけどまだ生産してたんだぁ」

湯河原の工場とその近くの1店でしか販売しておらず、遠方からはネットで購入するしか手がないそれが、なんとスイーツ好きの叔母には定番の品であった。あわてて「ご存じでしたか。最近知って後を引く美味しさに感動しました。ではお久しぶりのご賞味ということで。ご堪能ください」と返したが、冷や汗をかいた。

お宅にお伺いした際、ご夫婦それぞれの葬儀の仕切りを依頼された。すでに施設の候補は決まっており資金も用意してあるという。二人姉妹の子がいるが古い人なのでいわゆる本家の総領に当たる僕に頼んでおきたいということらしい。内心困惑したが笑顔で快諾した。

2回目の訪問の際、ちょうど春のお彼岸ということでぼたもちを用意してくれていた。最近僕が糖尿病から脳梗塞症状となったことを知っており、甘さを控えたという。あんこ、きなこ、ごま、抹茶、どれも美味しくいただいた。

「困ったことがあったらいつでも連絡してください」と僕は伝えた。叔母夫婦と僕はそれぞれの人生の中でいまがいちばん近しい間柄にあるような気がしている。

 

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