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植木職人

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生真面目な植木職人がいた。

夜明け前に仕事を始め、手元が見えなくなるまで枝を挟んだ。

早朝、家の者が寝ていると大きな声で怒鳴った。

「お~い、起きろお。いつまで寝てやがんだあ」

しばらくするとパチン、パチンと音がする。家の子供たちは布団からそっと這い出し、木戸の節穴から、その様子を覗いた。

植木職人には逸話があった。

ある日、兄(あん)ちゃんと慕う伯父に散髪に連れていかれる。

「明日いいところに行くからな」

行き先も目的もわからなかったが、兄ちゃんの言葉には素直に従った。

翌日、彼は今までにないほど立派な服を身にまとい祝言の席にいた。しばらくすると横に、なぜか花嫁が来た。

兄ちゃんは言った。

「お前はここに座ってろ。いいか、誰に何を言われても黙ってるんだぞ」

理由はわからないが、そのとおりにした。

そこには、すぐ上の実の兄が座るはずだった。しかし兄は、婿養子になることを嫌い、結婚式の直前に遁走してしまったのだ。後にわかったことだが、遠く離れた北海道でしばらく身を隠していたという。以来、彼は「ホッカイドウ」と呼ばれるようになった。

旧家の広い座敷に居並ぶ親類客の間から、しばらくすると声が漏れ始める。

「結納のときと顔が違うよ」

「あれは弟の方だろ」

両家の両親も、仲人も、そして当の花嫁も、誰も顔色一つ変えず、祝言は粛々と進められた。兄ちゃんだけが、たびたび酒を注ぎに来ては「もうすぐの辛抱だ」と言い勇気づけた。

いよいよ宴会はお開きを迎え、来客がぽつりぽつりと帰り支度を始めた。兄ちゃんも引き出物を受け取り帰ろうとすると、たまらず声を上げた。

「あれえ、兄ちゃんも帰っちゃうのかえ。どうすんだよお」

兄ちゃんは慌てて、彼のもとににじり寄る。

「いいか、お前は今晩はここに泊まるんだ。そうだ2~3日ここにいろ」

2~3日が1週間となり、1年となり、数十年となった。そして揺るぎないひと組の夫婦が生まれ、仕事のできる、強く明るい男が育った。

植木職人は腰が曲がるまで働いた。しかし、いつの年からか、あの家の子供たちは、早朝に庭から怒鳴る植木職人の声を耳にしなくなった。子供たちは布団の中で、ときどき寂しいと思った。

 

 

 

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