ココロノ

母蜘蛛

2日程前だろうか。
夜、広い座敷に敷いた布団で横になっていると
大きな蜘蛛が近くにいた。
手を伸ばせば届きそうな僕の頭の先。
気色のよいものではないので追い払おうと
畳を指で叩くもピクリともしない。
よくみるとお腹に白い物体を抱えている。
いや持っているのか、くっついてしまったのか
蜘蛛の生態を知らぬ者にとってそれは定かではない。
何度指で威嚇しても動かないので
新聞紙を棒状に丸め近くを勢いよく叩く。
するとようやく危険を察したのか、
引き戸の下に逃げて行った。

 

それから翌日も何回か見かけ、
どうにも行き場に困っている様子が伺えた。
相変わらず白い物体を抱え
座敷の隅でじっとしていた。

 

今朝、布団をたたみ片付けようと
奥の部屋に通じる引き戸を開けると、
なんとその中央、左右の戸が合わさる位置に
白く平たい丸い物体が置いてあった。
そしてその30cm横にはあの大きな蜘蛛が。

 

そうだ。これは彼女の卵なのだ。
母蜘蛛はどこに置けば安全にかえすことができるのか
必死に考え、今朝ようやくその場所を見つけた。
そしていままさに安堵と愛おしさを胸に
見守っていた最中だったのだ。

 

僕は母蜘蛛を驚かさないようにそっと布団をたたんだ。
そしてティッシュを2枚引き抜くと
その白い卵の塊をつまみごみ袋に入れた。
今日は燃やすゴミの日だ。
卵がかえる前に処分できる。

 

母蜘蛛はしかしまだその近くにいる。
3時間が経過したというのに
長い脚をすぼめ、じっとしている。

 

せめてどこか別の場所に移して
あげればよかったのかもしれない。
こころを痛めるが、もう遅い。

 

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