今週月曜日から実家にいます。老いた母をひとりにしておくのがさすがに心配となり、家族を東京に残し単身やってきました。これからずっと母と暮らしていこうと思います。
さて、四日目の朝の出来事です。
広い座敷にひとりで布団を敷き寝ていると母が寝室から起き出しガラガラガラと引き戸を開けます。無言で天井からぶら下がった照明の紐を引き、辺りを煌々と照らします。そして柱時計で時刻を確認すると「ああ、5時半だったか」と呟きました。
「どうしたの?」と寝ぼけ眼でたずねると「枕元の目覚まし時計が壊れ時刻が気になって眠れない」と言います。
うちの柱時計は30分ごとに時を知らせます。たとえば12時には12回鐘を打ちます。そして1時と各30分には1回。これが夜に少々困った事態を引き起こすのです。
たまたま布団のなかで鐘ひとつを聞き付けたとします。すると今が1時なのか、何時の30分であるか、まったくわかりません。僕などは気にせずそのまま寝てしまいますが、老いた母はひとつ気になるともうそれにとらわれてしまい身動きがとれなくなってしまうのです。
今回は5時半の鐘が母を追い詰めました。枕元の目覚まし時計が止まっていて時刻を確認することができなかったのです。
今母はその目覚ましを手にしています。「起きたら直すから」と布団の中で諭すも、かすかに不満を浮かべ空を見つめたまま子どものように立ち尽くしています。
根負けした僕は布団から出て、本能的に乾電池を探し、入れ換えます。案の上、復活したのですが、さて現在時刻を合わせることができません。
それは災害用の多機能時計で表示はデジタル。ラジオや照明も装備され、手回式の充電機もついています。そうだ。万が一に備えAmazonで僕が買い求めたやつでした。しかし愚かにも取扱説明書をどこかにやってしまった。
これまでの時刻合わせの経験から、どこかを長押しすれば、点滅し、そこから設定していけるはずと踏みます。何度かチャレンジし、年から設定することになりました。
しかしこの時計、時刻合わせのボタンが「進む」しかありません。「戻る」がないのです。間違えて「2020」に行ってしまったからもう大変。なんとかならないかと「進む」を押し続け「2048」まで行きあきらめました。月日と時刻はぐるっと回って設定できましたが、年はそのままとなりました。
ようよう寝起きブレイクスルーを成し遂げ、ひと心地ついた僕は母にやさしくたずねます。
「アラームは何時にセットする?」
すると母はこう答えたのでした。
「目覚ましは使っていない」
いやいや、じゃあなんで今直させたの? 寝過ごすのがいやで眠れなかったんじゃないの? あと1時間くらい時刻がわからなくたっていいじゃない? どうしてそれくらい我慢できないの?
そんな苦言をぐっと飲み込み、僕は布団にもぐります。そして賢者に戻り、前述の母の精神状態を理解するに至ったというわけです。
母は本日、2048年の朝を迎えました。目が霞んでいけないとぼやきますが、まあまあ元気です。
母と僕に新局面!
(注)このポストは中年男性が老いた母の世話をするため“単身赴任”で頑張る姿をお伝えするものです。同様の境遇の方の慰めにでもなればと考えております。いや正直、僕自信のストレス解消でもあります。深刻にならず諧謔の雰囲気を保つため多少暴言も吐きますが怒りは滑稽な人間であることの証左とお許しいただければ幸いです。タイトルに001をつけたのでたぶん002もあります。