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恋のブラインド掃除

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息子家族がくるというのでブラインドを掃除しました。嫁さんに、はずかしくない実家にしてあげたい。せめてもの親心です。

木製のブラインドはほこりが目立ちます。ダイニングからキッチン奥まで壁一面を占める広さなのでドライシートで拭き取ると1時間近くかかる。つれあいは、さらにそのあと固く絞った雑巾で拭かないとしっかり落ちないと言います。

渋っていると「仕方ない手伝ってやるか」と腕をまくりました。

 

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僕が先にほこりをぬぐい、追ってつれあいが雑巾で拭く。ふたり並んでの作業なんて、何年ぶりでしょう。つれあいは仕事が早いので、追いつかれはしないかとひやひやです。でも、むしろそれが一体感を醸し、なんだかいい気分。彼女もそれを感じたのか、新婚当時の思い出を取り出しました。

「ブラインドはこりごりだったのにね」

結婚して初めて住んだアパートは絵に描いたようなオンボロでした。木製の玄関ドアのノブはたびたび引っこ抜け、ラメの入った土壁と柱は隙間があいていました。6畳二間のうなぎの寝床の玄関側に申し訳程度に備えられた半畳ほどのキッチンスペース。その窓に僕らが取り付けたのが白いスチール製のブラインドです。

アパートの廊下側にあるので視線を遮りたい。2階のため容赦なく差し込む西日を防ぎたい。でも部屋に風を通すための片側唯一の窓なので夏は開け放っておきたい。その解決策がブラインドだったのです。エアコンなんてとても手の届かないビンボー夫婦でした。

しかしこのブラインドが大きな誤算だった。そよ風程度ならよいのです。でもちょっと風が強くなってくると、ブラインド全体があおられ、サッシに当たりカタンカタンとひどくうるさい。そして間もなくガシャッと羽根がいっきに閉じ、旗のように大きく前後にはためき、けたたましい金属音を打ち鳴らすのでした。

つれあいと僕は「もう二度とブラインドなんか買うもんか」と呪ったものです。

そんなことを思い出していると、彼女が手を休め「ちょっとちょっと」と手招きします。僕のカラ拭きと自分の雑巾拭きの違いを確かめてみなさい、というわけです。いっしょに眺めると確かに差は歴然。「なるほどね」とつぶやくと、隣りでにこにこしています。

新婚当時のあのブラインドは、三十数年たっても話のたねになるのだから、それほどわるくはなかったのかもしれません。

 

 

 

 

 

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