隣りのつれあいが僕の顔をまさぐります。
寝しなの暗闇。ベッドのふたり。中指が鼻を、人差し指が顎を、薬指が頬を、ランダムに這いまわる。3Dスキャンのレーザー光とは真逆のアナログさと静かさで顔立ちをトレースします。
性的なサインではありません。稚気に誘われるがままのひとり遊び。数年に一度見せる奇妙な行動です。
その間、僕は僕で“ある”チャンスを待ち構えます。
砂漠の爬虫類が夜明けにようやく瞼にたまった水滴を舌先ですくい取るように、唇に近づきすぎた指をぺろりと舐め返したい。僕はトカゲ。超高速カメラでなければ捉えられないスピードで指を舐めるトカゲ。寝入ったふりをして、じっとそのときを狙います。
するとつれあいが突然うめき声をあげる。
「うおぉぉ、舐められるぅ~」
これまで何度も繰り返してきた不快な結末。今回は殺気を感じ先に指を引っ込めてしまいました。
「おおお、すごい! わかった?」
悔しむよりも前に、つれあいの鋭さを称えました。
それぞれの「ひとり遊び」が「ふたりのゲーム」に。無邪気が老いを彩る夜でした。