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オカシミ

寝過ごした人

土曜日の午前。県内一のターミナル駅。折り返し列車が入ってくる。夏休みも2週目ということでホームは種々雑多なひとでごった返している。

乗降口が空くのを待ち列車に乗り込むとひとりの男がダラんと眠りこけている。

その前に高校生と思しき女の子がふたり。こちらはちょっと悩まし気な様子だ。起こしてあげるべきか、立ち去るべきか、顔を見合わせては、彼を見つめ行きつ戻りつしている。

新たな乗客がわらわらと入りはじめたところでようやく意を決したのか、ライオンにでも触れるように恐る恐る指先で肩を突付く。

「終点ですよ」

はじめは小さかった声も3回ほど突いたところで落ち着いたのか、はっきりと聞こえるものとなった。そこでようやく男はだるそうに薄目を開く。そしてしっかり見開いたのを確認すると彼女らは小犬のような声で笑い足早に立ち去った。

友達とショッピングにでも来たのだろう。善行のハプニングに楽しくあるべき今日が約束されたと感じているに違いない。

しかし天使たちよ。彼はまた眠りに着いた。

男は若い。髪はブラウンに染め、横分けに短く整えている。今どきの髪型を載せたぽっちゃりと整った顔は育ちの良さを感じさせる。

ダメージ加工されたダンガリーシャツに黒い細身のコットンパンツ。シャツはパンツの上に出している。ソックスは水色。スニーカーは黒。カラーコーディネートにも気を使っているようだ。

たぶん大学生くらいだろうが、鼻の下に薄く伸びた無精ひげが全体を老けた印象にしている。

頭はガラス窓に預けられ、肩と腰が逆向きにねじれ、肩尻は浮いている。そして片方の足がだらしなく前に伸びている。リラックスどころの騒ぎではない、我を失った者の姿勢だ。ママに見つかったらベッドで寝なさいときつく叱られることだろう。

折り返し列車はもう5分もすれば発車し、通過してきた駅へと戻っていく。

しかし乗り過ごそうとしている彼をほおっておくほど世間は冷たくない。第二のレスキュー隊員が現れる。

遠くの座席で妙齢のご婦人が立ち上がりつかつかつかと近寄る。

「着いてるわよ」

彼はさっと目を見開き、はっきりとした声で答える。

「あっ、だいじょうぶです」

眠り呆けているとばかり思っていたご婦人は意外にも即答されたことで気勢をくじかれる。

「あら、余計なことしたかしら」

周囲に言い訳を述べるように小声をあげると踵を返し友人のいる座席へと戻っていった。

さて、列車は定刻どおり発車した。

すでに6駅目。

口を薄く開き、首を90度右に傾け、さらに深い眠りへと落ちている彼を起こそうとする者は、もはや誰もいない。

 

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