花が散るのも雨と風。花が咲くのも雨と風。
明るい座敷に新聞紙を広げ、落花生の殻をむきながら祖母はぼそっとつぶやいた。思春期にあった僕はその意味を尋ね、なるほどうまいことを言うな、と感心した。
小柄ながら恰幅がよく、いつも笑顔で声が大きい。道行く知り合いを見つければ、お茶を飲んでいけ、と呼び掛ける。実家に嫁いでくる前は、村で一番の踊り上手、そして歌上手だったらしい。祭りの練り歩きの先頭はいつも祖母だったという。オチャメで可愛い人だったが、自分なりの人生訓を備えていた。
そんな祖母も故人となり、大人になった僕はふとその句を思い出し、知人に話したことがある。すると親切にも出所を調べてくれ、作者不詳の「与論小唄」という俗謡であることがわかった。
遠い昔、寂しい与論島に19で嫁いだ女が、歳を経て、別れ話に行き当たる。その夫婦を諭す一節に、件の句はあった。
咲いた桜に 惣れるなよ
花はきれいが 散り易い
恋をするならあの松よ
枯れて落ちるも二人づれ花を咲かすも 雨と風
花を散らすも 雨と風
雨と風とが ないなれば
花も咲かねば 散りもせぬ
▲出典:るんたるんた 民族楽器専門店
祖母は、なんとも粋な人だった。