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食パンの、美味しい想い出

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子どものころ、家は農家で、田植えや稲刈りの時分にはお昼ごはんをつくる暇がなくなります。するとよくお店から買ってきたパンが用意されました。

 

shokupan

 

たのしみだったのがサンドイッチでした。日持ちするクリームパンやジャムパン、コッペパンが主流のなか、焼きそばパンでさえめずらしく、さらにめったに食べられないのがサンドイッチでした。小さな長方形の食パンの断面がプラスチックのトレイにきれいに並べられた姿はどこか都会風。ハムはカラシが効いていて、たまごはしょっぱく、小さすぎてぜんぜんおなかがみちなくても断然食べたかった記憶があります。

中学生になり、食パンの本当の美味しさを知ったのは、祖母がつくってくれたトースト&バターでした。当時、家と敷地続きの畑に土木会社の飯場(はんば)が建てられており、祖母がまかないとして働いていました。

ある日の午後、人がまばらな時間に祖母に呼ばれ飯場をたずねると、出してくれたのがカリカリに焼いた食パンにバターをたっぷり塗ったトーストでした。パンとバターの風味、ちょっとしょっぱい味、焦げた表面の触感。シンプルだけど繊細かつ絶妙なバランスに僕はすっかりノックアウトされてしまいました。トースト、うまし!

高校生のころはバレーボール部に所属し、一時、部室に食パンとマヨネーズ、バナナを常備していました。お昼休みになると部室に行き、それをお弁当代わりに食べるのです。作り方はとってもかんたん。食パンにバナナをのせ、マヨネーズを隙間に注ぎ、二つに折りたたむだけ。これが甘じょっぱくて美味しく、しかも腹持ちがよい。高校時代の一大発明で、いまもときどきそれをやります。

大人になり、自分の会社を作り、表参道の同潤会アパートの裏手に事務所を置いていたことがあります。近くの看護協会のビルの広い階段を上がった左手に小さなカフェがありました。店名は忘れましたが、そこのクロックムッシュが美味しかった。

仕事はだいたいがタクシー帰りの午前様だったので、当然翌朝の出勤は遅い。お昼ごはんもうしろにずれ、忙しいのでお昼はかんたんにすませたい。そんなわけでよくそのお店のクロックムッシュをいただきました。

ちょっと奥まった場所にあったためか、お店はいつも空いていて、ほっと一息つける雰囲気が好きでした。

でも田舎者の僕は、クロックムッシュがそもそもどんなものなのかを理解せず、単純にハムとチーズを、耳を落としたトーストで挟み、四方をギュッとつぶしたもの(そのお店のスタイル)をそう呼ぶのだとすっかり思い込んでいました。

ある日、どうして「ムッシュ」なのだろうと不思議に思い調べたところ作り方や食べ方の作法が決まっており、さらにクロックマダムなるものがあることを知ります。フランスの食パンのスタイリッシュさにひれ伏すばかりでした。

現在は、連れ合いが作ってくれるお手製のパンがもっぱらです。これはこれでもっちりして美味しいのです。でもたまに市販の食パン、とくに大手メーカーの、季節によってはお皿さえもらえる大量生産の食パンが食べたくなります。空気を食べているようなふわふわな食感が物足りないと連れ合いは言いますが、僕は、これはこれで「あり」と思っています。どこか無垢で上品な食パン本来の気高さがそこにあるような気がするからです。

僕は食パンが好きです。

 

 

 

 

 

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