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中学時代に好きだったのは誰ですか?

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小中時代の同級生にCさんという女性がいます。

生徒会で会長をやっていたとき、暴走しがちな僕を副会長として助けてくれました。抑制の効いた声で噛み砕くように繰り出すダメだしはいつも説得力がありました。彼女の図書カードをのぞいたわけではありませんが、きっと古今東西世界中の文豪作品をすべて読破しているにちがいありません。その知性に僕は敬意を抱いていました。

中学時代の恩師が病気で亡くなる間際、まっさきに連絡をくれたのはCさんでした。

「先生がみんなに会いたがっている」

僕は日時を申し合わせ親しい男子に連絡しいっしょにお見舞いに行きました。

親友が亡くなった際はクラスの女子への連絡をお願いしました。

夜電話をするとあいにく娘さんの受験前日でつきそいのためホテルにいると言います。てんぱっていた僕は「誰でもひとりでいいので女子に連絡役を引き継いでくれないか」とお願いしました。まったく迷惑この上ない依頼でした。彼女は渋々それを引き受けてくれました。

さて、先日行われた還暦の同窓会です。

何人かが人生の成功をビール瓶片手に報告しにやって来た後、彼女が中学の卒業アルバムを片手に僕の横に座りました。

まずは十数年前のご迷惑のお詫びです。

「その節は無茶ぶりしてごめんねえ。娘さんは無事合格した?」

「ほんとだよ。合格したよお」

さりげなく水に流してくれました。

そして「ほら」と卒業アルバムを渡してくれます。

大学を中退し、以来東京暮らしで、少数の友人以外顔がわからなくなってしまった僕にアルバムの人物の名前と会場の顔ぶれを指差して教えてくれました。

少々酔いの回った僕は、彼女にいじわるな質問をしてみました。

「ところでさあ。Cさんが中学時代好きだったのは誰だった?」

男子間でやるお馴染みのあれです。

いじわるもろだしのニタリ顔を二度見し「う~」と唸ったあと、ようやく重い口を開いてくれました。

「Yくんだよお」

ぶっきらぼうだけど運動も勉強も得意だったひとです。同じ高校に進んだ彼は麻雀ともだちでよく彼の家で卓を囲みました。

Cさんは間髪いれず言葉を継ぎます。

「でもがっかりしちゃった。いろいろ話そうと思ってたら『俺はこうだから、こうだ』って自分のことばっかり。話がそれで終わっちゃうのよ。あんなひとじゃなかったのに」

そういえばさかんに話かけている彼女の姿がありました。

「まあ、そういうこともあるよ」

ありきたりの慰めしかできません。

ただ僕はあるがままを打ち明けてくれる彼女に変わらぬ生きざまを確認し、どこか満足した気分になったのでした。

還暦の失恋。不満顔もどこかふざけているように見える彼女は充実した人生を歩んできたようです。

 

 

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