父が植えたのか、祖父が植えたのか、
屋敷の端に大きなあんずの木がある。
子どもの頃にはなかったので
取り立てて実りを期待していたわけではなかったが
本日、その近くを通り
地面にたくさんの赤黄色の実が落ちているのに気付き
改めてあんずの存在を知ったわけである。
遠くからみると1本に思えたが
近くで枝振りを探ると2本の木であった。
実をがぜんならしているのは陽当たりのよい
南西側の木である。
熟すとすぐ落果すると見え
地面にあるとはいえ腐ってはおらず
充分食に耐えるものと思えた。
五つばかりを拾い水道水でよく洗い齧ってみる。
口中に果実の甘さが広がるというわけではなく、
酸っぱさをかすかに残した自然の甘味が感じられる程度だった。
だからといってザンネンというわけではなく、
それはそれで充分美味しい範疇なのであろう。
人工甘味料に慣らされた僕の味蕾に清純を取り戻す
またとないチャンスであることをまず感謝すべきだ。
せっかくの“いただきもの”なので母に食べるか聞いてみた。
「ああ、あたしはいらない」と例年無視してきた強者らしい
はっきりとした拒絶反応になるほどと思いながらも
ちょっと残念な気持ちもあった。
五つをキッチンで立ったまますべて食べ切った僕、
腹を壊さないことを願いつつ
よき初夏の体験にひとり微笑む。
あんず甘いか酸っぱいか
この記事は約1分で読めます。