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失った父の呼び名

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息子が、1歳5ヵ月の娘に「お父さん、お母さん」と呼ばせると決めました。

多くの親が迎える決断の一つ。僕らも息子に、そのように呼んでもらったので、わかるような気がします。「パパママ」「父ちゃん母ちゃん」それぞれ個性があり素敵です。どことなくそうした呼び名に家族のめざす在り様が反映されているようです。「お父さん、お母さん」には平凡なりの穏やかさがあり、僕らも好ましく思うところです。

僕は父母を「お父っちゃん、おっ母ちゃん」と呼んでいました。理由はとんとわかりませんが、田舎では普通の呼び名だったと思います。

婿に出た叔父は実家に帰ってくると、母を探し、大声で「おっ母さあ~ん」と呼びました。実家は谷状になった村の底なのでその声が村中に響きます。母が恋しい叔父を微笑ましかったとある人は後に教えてくれました。

 

yobina

 

子は、ある年齢に達すると父母の呼び名を改めようとします。

「お父っちゃん、おっ母ちゃん」と呼んでいた僕も中学生になる頃に悩みました。よい言葉が見つからないまま、いつの間にか呼び名を省くようになり、父と折り合いがつかず家を飛び出してからは完全に呼び名を失いました。

結局、40を過ぎ父をガンで亡くすまで、いっしょに酒を飲んだときも、最期に手を握り話したときも、父に呼び名をつけることはありませんでした。いくら後悔しても取り返しのつかない僕の弱さがしでかしたことです。せめて「お父っちゃん」でもいいから、親しい呼び名で呼んであげるべきでした。

いま僕は他人の前では父のことを「オヤジ」と呼びます。母の前では「あの人」あるいは生前の名前をそのまま「〇〇さん」と呼びます。永遠に正しい呼び名を失ったままとなりました。

僕の息子は最近面と向かって僕のことを「オヤジ」と呼ぶようになりました。また一つ、越えられました。

 

 

 

 

 

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