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そしてタコ焼きの青年はパン売りの娘に恋をした

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駅ビルの幅2メートルほどの細い通路を隔て、タコ焼き屋さんとパン屋さんがありました。

 

takoyakiandbread

写真素材ぱくたそ PHOTO BY すしぱく

 

タコ焼き屋さんの前では、腰の曲がった老婆が床に置いた袋に買ったばかりのたこ焼きを詰め込もうとしています。売り子の青年が腰を下ろし、それを手伝ってあげていました。まるで自分の祖母に接するような少々粗野だけど温かみのある言葉が、彼の人柄を表わしていました。

向かいのパン屋さんでは若いお嬢さんが行き交う客に呼び込みの声を掛けています。慣れた口調で、慣れた声音で。たぶん高校生くらいから販売業のアルバイトをやってきたのでしょう。聞き流せるくらいに自然で、でも商品に思わず目をやってしまう、気の効いた言葉に熟練が感じられます。美人ではないけど、愛きょうのある笑顔が素敵でした。

何か予感がしたのです。遠くからそれを眺めていた僕には、甘酸っぱい「if」で始まる物語が浮かんでいました。

するとつぎの瞬間。タコ焼きの青年がパン売りの娘に声を掛けたのです。

「その四角いパン、おいしいですよね」

パン売りの娘は戸惑ったように青年の顔を見つめ。笑顔で答えました。

「あ、うちのパンですか。ありがとうございます。この四角いの…、買っていただいたんですね。ありがとうございます」

さっきまで滑らかだった足取りが、売り場を行きつ戻りつバタついている。そしてそそくさとウィンドーの奥に引っ込んでしまいました。

しばらくして、心を整え直したのでしょう。また店頭に出てきました。

青年は、と見ると。

おい、おい青年。手が止まってるぞ。いつまでもぼうっと見とれてるんじゃない。タコ焼きを早く焼け!

絵に画いたような恋が、始まっていました。

 

 

 

 

 

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