僕のつれあいは高校時代、軟式テニス部に所属していました。都内の強豪校であり練習は厳しかったと言います。そのため苦難をともに耐え抜いた仲間の証として自分たちを“セブンシスターズ”と呼んでいました。
7人姉妹…年頃の女の子らしい固い絆です。でもちょっと大仰で、僕はおかしみを感じていました。
“セブンシスターズ”が初めてわが新婚アパートに訪ねてきた、数日後のことです。暇を持て余した僕らは彼女たちを花にたとえてみるという遊びを始めました。
おおらかで包容力にあふれたAさんは「睡蓮」。
社長令嬢で派手な印象ながらしっかり者のBさんは「アヤメ」。
美人で乙女なCさんは「マーガレット」。
勝ち気で、チャキチャキなDさんは「ダリア」。
気難しやで末っ子タイプのEさんは「スミレ」。
昭和のおばさん感がぬぐえないFさんは「大菊」。
さて、6人までたとえると、もう逃がれられません。「私は? わたしは?」と妻がせがみます。
しばらく考え、僕は笑みをたたえ「ホタルブクロ」と答えました。
すると彼女はそれまでの相好をさっと引っ込め「え~~~?」と肩を落とします。初めて目の当たりにしたギャフンのポーズでした。
「ホタルブクロ」は蛍袋。釣鐘状の花弁の口をつまむと小さなカゴとなります。そこに蛍を入れると柔らかい薄ピンクの花びらの中で淡い光が点滅し、幻想的でとてもきれいです。
夏が近づくと通学路の日陰にツユクサととも咲き、小学生のころは大好きな花のひとつでした。
妻はネジがどこか抜けているのではないかと思えるほどおっとりしていて、それが大きな魅力でした(じつは強い信念を持つしっかり者であることに後に気付くのですが)。いっしょに暮らしてみると日常の些細なことに感動する可憐な姿にさらに惹かれました。その素朴な佇まいから「ホタルブクロ」がふさわしいと思ったのでした。
もちろん地味な印象の雑草であることはわきまえており、多少の「オチ」の意味もありました。でも改めて思い返すと「妻にしてよかった」としみじみ思う親愛の情が、すでにそこにあったのです。ほかの6人は見た目の印象でしかありませんでしたが、彼女については心の底からの花のたとえでした。
当時はその繊細な心持ちをうまく切り取れなかったけど、30年以上の時を経て、あのころの直感は間違っていなかったとしみじみ思います。