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砥石と植木ばさみ

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祖父が現役の頃から使っていたものだろう。きれいな直方体であるはずの砥石は滑らかにえぐられ、その年季の数を物語る。1992年、行年83歳で亡くなったのでそれから30年、いや使用期間を考えたらきっと50年はいっている。

昔は稲刈りや草刈りに鎌を使っていたのでそれを研ぐのが主な用途であった。百姓をやめた現在は庭木を剪定する植木ばさみに用いる程度なので、もしかするとあと50年はもつかもしれない。

そう、この植木ばさみだってそうだ。祖父が使っていたものなので砥石に負けないくらいの年季のはずである。

ここ4日間ほどイヌマキの垣根やイヌツゲを剪定している。9月から10月が適期とされており、毎年このころが忙しい。私も老境に入りつつあるので、せいぜいやって1日3時間である。一時の酷暑がおさまり秋風が心地よくなったといっても体の筋肉がついてこない。最後は脚立にもたれかかるほどにへとへととなる。

毎日、作業を始める前に、この古い植木ばさみと少し短い新しい植木ばさみに砥石を当てる。この年季物の荒砥ぎ用と柔らかい仕上げ用の2つを使うので片刃4分として4刃分で16分を費やす計算だ。さらに刃の裏側につく枝葉の油汁も切れ味に影響するので砥石でこすり削り取る。

刃に対する砥石の角度は20度がよいとされているようだが、はじめのうちは力の入れ加減も含め定まらない。ただ、もう20年は研いでいるので近年は慣れたものである。

幼い頃、わが家には熟練の植木職人が入っていた。親類筋の方でぶっきらぼうではあったが心根のやさしさは子どもでもわかった。

最近は、ご近所のほとんどが垣根の剪定に電動バリカンを使用する。植木ばさみでちんたらやっている私の姿を見て、昨年は「こっちのほうが早いから貸しますよ」と申し出てくださる方が現れた。じつはわが家にも父の使っていたものがある。それを告げると話がややこしくなるので私は「いや、指を挟んじゃいそうで怖いから使えないんですよ」とやんわりお断り申し上げる。

しかし電動バリカンを使わない理由はそれが本心ではない。じつはあの植木職人に近づきたいからなのである。植木ばさみを上手に使いこなせるようになることで、人としての味わいを醸せはしないかと欲するからなのである。

わが家の垣根の剪定は、まだやっと半分。例年は6日作業で済んでいたが、さすがにわが身は年季の限界に近づいているのだろう。7~8日は覚悟しておかねばと思っている。

庭の金木犀もそろそろ散り始めている。

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