僕が体験した不思議なこと、じっさいに見たこと、聞いたことをご紹介しています。第2回は謎の光体です。
屋根の上を炎をあげて飛ぶオレンジ色の火の玉
中学生のとき、実家のトイレは外にありました。市の博物館が調査にくるような古いつくりの民家で、昔ながらの百姓の生活スタイルがそのまま残っていたためです。
泥の付いた野良着をいちいち脱ぎ着するまでもなくそのまま用が足せるのは、きわめて合理的ですが、思春期の少年にとって、それは人生における憂鬱の一大事であり、友人が家に遊びにきたときなどは外のトイレの存在を知られたくなく、早く帰るようわざと冷たくあしらったものです。
さて、それは中学1年生の秋だったと思います。夜9時過ぎに外のトイレに行きました。玄関の頑丈な木の大戸は閉められ、そこに設けられた小さな引き戸をくぐり、外に出ると開けた庭があります。20mほど先の正面には瓦屋根の納屋が黒いシルエットとなり立っています。トイレは引き戸を出て右手に4mほど行った先です。
僕の目は納屋の上に釘付けになりました。中央がやや白く周囲がオレンジ色の炎に包まれた30cmほどの大きな火の玉が、3mもある長い尾をうねらせながら、左から右へとゆっくり飛んでいるのです。ゴオーというか、ボオーというか、そんな唸るような低音を耳に感じました。
人は見たことのないものを見ると、どうやら脳がうまく働かないようです。僕は心の中で「これが火の玉か」と理解しながらも、冷静に用を足し、すでにそれが消え去っているのを確認しながら、ゆっくり家の中に戻りました。
寒気を覚え、鳥肌が立ち、足がすくんだのは灯りのついた座敷に上がってからのことです。家族はみなそれぞれの部屋に入り、一人でテレビを観ていた僕は、さっさとスイッチを切り、布団にもぐり込みました。
あれは何だったのか。家族の誰にも話していないので、過去に誰か同じものを見たことがあるのかはわかりません。
僕の生まれた村は子ども会があり毎夏肝試しが墓山で催されます。ある年、頂上付近の墓石の裏に隠れていた複数の大人たちが、すでに順番を終えた子どもたちを連れ、血相を変えて山を下りてきました。頂上の雑木林の上をたくさんの火の玉が飛んで行ったというのです。もちろんその年は、そこで中止になりました。
そんなこともあったので、もしかしたら村ではときどき起こる現象なのでしょう。たぶん未知の気象現象の一つでプラズマか何かが発光したものだと思います。
あの後、僕は火の玉を見ていません。
初七日の夜、母屋に舞い降りた白い大きな光
父が亡くなったは16年前の8月15日です。今年17回忌を迎えます。肝臓をがんにやられ、入退院を繰り返していたので覚悟はしていたのですが、それでもやはり死は唐突です。古い大きな家に一人残されることになった母が可愛そうで、10日ほど実家に留まっていました。
それは初七日の翌日に聞いたことなのですが、前夜11時過ぎ、父の眠る墓山の方角から白く輝く大きな光の球体が飛んできました。それはうちの母屋の上空にくるとピタッと止まり、こんどは垂直にゆっくり下降し、屋根の付近でスッと消えてなくなったそうです。
それを見たのは一人ではなく、同時刻に別方向から二人の女性が目撃していました。どちらもうちの親類筋に当たり、親しくお付き合いしているので、翌朝さっそく教えてくれたのです。
当夜、母は就寝し、たぶん僕は酒を飲んでいました。でも何ら不思議なことは起こりませんでした。
父がちょっと寂しくなり、家に帰ってきたのかもしれません。亡霊でもかまわない。もしもいっしょに飲めたら、それはそれでうれしかったのですが。