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結婚する前か、後だったか、いまとなってはもうどちらか忘れてしまったけど
僕と後に結婚することになる彼女は、あるいは僕と結婚したての彼女は
東京渋谷の宮益坂入口にあった昔東急文化会館と呼んでいたビル上階の映画館で
「フラッシュダンス」を観た。
観終わった後通常ならエレベーターで下に出るのだけど
そのときの僕らは階段をふたりで踊りながら下りた。
コピーライターとイラストレーターと言う、どちらかというと文科系の仕事だったので
ダンスなんてまったく素人のふたりだったけど
そのときばかりは映画の主人公になりきり、めちゃくちゃな振り付けで、リズム感も何もあったもんじゃないヘタクソなダンスをお互いに満面の笑みで披露し合っていた。
それから35年余り後、僕はふとその時のふたりの姿を思い出し、
なんて遠くまで来てしまったんだろうと少しセンチな気持ちになり涙を溜めた。
そのことを翌日LINEで妻に伝えると
即座に「バカだったねえ」と明るい反応が返ってきた。
僕は「いや、年取っちゃったなあ、と思ったのよ」と返すも
どうにも彼女にはピンと来なかったようである。
僕だけが遠い世界に来てしまったのだろうか。
もうあんなことできない人間になってしまったのか。
老いは残酷だけど、でもだからこそあの時の輝きったらない素晴らしさを思える時なのかもしれない。