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フルサト

青いブーメラン

 

竜宮城をみつけた日から数年後、僕は小学6年生となったが、工業用地として埋め立てられた干潟はまだ出来そこないの陸地だった。

工法はわからない。たぶん沖合の浚渫(しゅんせつ)した砂を用いたのだろう。新しく生み出された陸地にはおびただしい数のツノガイが白い躯となり転がっていた。平たく丸いタコノマクラも捨てられたクッキーのように散乱していた。子どもでも、それが自然破壊の姿であることがみてとれた。

陸地の向こうに海はあるはずなのだが、1km以上向こうに遠のいてしまい見えない。目の前にはひび割れた半泥地が広がるだけだった。

日曜日に行くとラジコン飛行機が軽快なエンジンを響かせ飛んでいた。なるほど遮るもののないこの場所は趣味のフライトに最適だ。友だちが貝殻を投げると、飛行機が低空飛行で僕らを襲ってきた。歓喜の声を上げ逃げ回り、知らない大人との戦争を遊んだ。

*

ある日、校長先生が朝礼でひとりの児童が亡くなったと言った。埋立地には排水のための太い鉄管が高架となり海まで伸びている。その上を歩き、かなり先まで行ったところで足を滑らせ落下した。その子は海水をたっぷり含んだ泥にはまり溺れ死んでしまったそうだ。

埋立地に行くことは禁止されていたが、僕はそこでブーメランを飛ばしてみたかった。

通学路の1件の駄菓子屋で青いプラスチック製のブーメランを買い求めていたのだ。本格的なものも並んでいたが、子どものお小遣いでは100円のおもちゃがやっとである。しかし広い空の下、大きな放物線を描き戻ってくる雄姿を想像するに十分な小道具だった。

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その季節、埋立地は毎日強い風が吹いていた。小さく軽いブーメランを思いどおり飛ばすのは不可能だ。しかし、風のない場所が1ヵ所だけ見込めた。村には小川が流れている。埋め立てによってせき止めないよう運河が掘られ10mほどの渓谷になっていた。そこならきっとうまくいくはずだ。

さらさらと崩れる斜面に足を取られながら駆け下り、底の岸辺に立った。白く輝く砂の高い壁に囲まれ、辺りは静寂に包まれていた。僕は深呼吸し、願いをついに実現する覚悟を整える。つぎの瞬間、腕を後ろに大きく引き、振り上げると青いブーメランを空に向け放った。

ブーメランはくるくると急角度で天へと登って行った。しかし、回転はすぐさま力を失い、雷に打たれた蝶のように脆く落下してしまった。そして運河の深い流れに沈み息を止めた。

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干潟の沖に何軒かの家が漁業権を持っていた。それは県によって買収され、相当な金額の補償金が支払われた。なかにはありったけの芸者を呼び一晩で散財した猛者もいたという。祖父は群馬県の嬬恋村に別荘地を購入したつもりが原野商法に引っかかり補償金のほとんどを無くしたと聞く。ただ思いっきり飛ばしてみたいというだけで青いブーメランを無くした僕もそこにいた。

欲に溺れたという点ではいずれも似たようなものなのかもしれない。

 

 

 

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