夜8時過ぎに布団に入り、1時間ほど本を読み、仰向けになる。上手く眠りに入れそうと思ったのもつかの間、両足指がつりそうになる。
一日中椅子に座りパソコン作業をしていたのがいけない。寝しなにグッと背伸びをして体をほぐしたつもりだが、足先の筋肉の硬直までは、ほぐれなかったようだ。
足の指を前後にくねくね曲げてごまかそうとしたが、痛みは徐々に広がり、とうとう膝下へと到達する。最初に右足がつり、それは自然に戻った。しかしつぎにきた左足がいけない。はじめは苦笑いだったが、そのころになるともう痛みで顔がゆがむ。
昔よく、足がつったらアキレス腱を伸ばすとよいといわれた。そこで手を伸ばし、足の指先を手前に引くがなんの効果もない。今回はふくらはぎではなく足の甲を通し脛がつっているようだ。手でさわると足先が手前に硬直し、押すと足首の関節が戻るのがわかる。
空いている右足で左足先を押してみる。それでもどうにも治まらない。もはや布団の中でもぞもぞやっている場合ではないとあきらめ、立ち上がることにした。
しかしこれがまた難しい。左足がまったく使えないため右足だけを頼りに立とうとするのだが、63歳と老いの入り口に立つ体、ましてさっきまで軽くつっていた部位である。思いのほか力が入らない。
しかたなく壁まで1メートルほど這いずり、そこに手をかけ支えとすることでようやく立つことができた。痛む左の足の裏を恐る恐る床につけ、徐々に重心を移し、足首を回す。そうすることでようやく激しいつりから解放された。
昔、父が元気だったころ、たまたま法事か何かで実家に泊まった夜。同じ座敷で寝ていた父が夜中に急に呻きだしたことがあった。どうしたかと聞くと足がつったという。いい大人になっていたので父の体に触れるなんてなんだか照れくさかったが、そこは仕方ない、しばらく足首を曲げたりなどしてほぐしてやった。
父は酒が好きで仕事の後、だいたいは飲んで帰ってきた。普段は母のいる奥の部屋に寝るのだが、その夜は座敷に寝ていた私のそばに布団を引っ張り出していた。いまにして思えば、普段実家に寄り付かない息子といっしょの時間を大切にしたかったのかもしれない。
父はその後糖尿病で入院し最後は肝臓がんで亡くなった。足がつるのは糖尿病の前兆である、というようなネットの記事を読んだ覚えがある。父との思い出のせいか、なるほどと思っていた。
現在私はかかりつけ医のもと3ヵ月に一度血液と尿の検査を実施しており、1ヵ月前の検査では血糖値は正常の範囲内であった。ゆうべの足のつりの原因ははたして何であったのか。たんなる運動不足と思いたいが、それ自体が成人病を引き超す原因の一つではないか、と反省してみたりもしている。
この4月で私は64歳になる。父の行年に当たる年だ。